ダンゴムシ情報

身近な虫の観察記録

ダンゴムシのデトリタス食性

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ダンゴムシのためにこれまで20種類ほどの枯葉を採集して与えましたが、その中で一番よく食べるのはカツラのようです。近所の公園のカツラの木の根元にはたくさんのダンゴムシがいます。

カツラの枯葉にはマルトールという成分が含まれていて、キャラメルのような甘い香りがします。

秋に採集したての物はダンゴムシに大人気ですが、ずっと保管していて香りがほとんど無くなってもまあまあ人気です。香りは無くなっても味が甘いのかもしれません。

サクラやクズも食べますが、よく食べるという情報を目にして期待していたほどは食べません。

 


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この映像で食べられている葉はユリノキです。道端に転がっていた汚いクシャクシャの枯葉を熱湯消毒した物です。これにダンゴムシが大量に群がって夢中で食べていました。

トチノキ、アオギリの枯葉も物によってはよく食べます。

そうかユリノキが好きなのか、とユリノキの枯葉を拾ってきて与えても物によっては全く食べません。

同じ種類の葉っぱなのに、一体ダンゴムシにとって何が違うんでしょう。

カキやエノキのような分厚くて固い葉は全く食べないことから、とにかく乾燥していてパリパリして食べやすければ良いんじゃないかと思い、ユリノキを2週間ほど冷蔵庫に入れて乾燥させた物を与えてみましたが、特に食いつかず。

そういうことでは無いらしい。

 

調べると、ダンゴムシは本来「デトリタス食性」といって微生物によって分解された落葉や死骸、排泄物を食べる生物で、食べるかどうかは分解発酵が進んでいることが重要なようです。

 

「分解」って具体的には何なのか、というとそれは「有機物を無機物に変える」ということです。有機物は炭素といくつかの分子の結合でできていて、栄養吸収の過程でその結合を崩して最終的に無機物にすることが分解です。

「発酵」って何なのかというと「有機物が乳酸菌や麹菌、酵母などによって不完全分解され無害に変質する」ということらしい。人にとって有害に変質することを腐敗と呼ぶらしい。

 

生物の死骸を構成する主要成分であるタンパク質、脂質。

植物を構成する主要成分であるリグニンやセルロースのような不溶性食物繊維。

これらの有機物を微生物がある程度分解発酵した後、ダンゴムシがさらに細かく分解します。

そういえば、飼育ケースの中に隠れ家として置いていた木が半年ほどの長い時間をかけて少しずつ腐っていき、飼い主としてはすっかり汚くなってきたなぁなんて思っていたけれどダンゴムシはそのグジュグジュになった部分をゴリゴリ齧っていました。

植物が腐ると単純に柔らかいから食べやすいというのもあるだろうし、主成分のリグニンやセルロースは分解されるとブドウ糖に変わるらしいので、もしかしたらダンゴムシにとって腐った植物は美味しいのかもしれない。

 

微生物が一手間加えてあげないと食べない。

なんとなく微生物がお母さんでダンゴムシを乳幼児みたいな存在だとイメージしてみるとかわいい。

 

腐った植物といえば、森林公園などに積もった落ち葉の層の底にある腐った葉やその下の天然の腐葉土は大好物に違いありません。

そもそも、そういう積もった落ち葉の下にダンゴムシがいるのだから、当然といえば当然なのでしょう。

ダンゴムシを家で飼育して乾燥エビや野菜をボリボリ食べている姿ばかり見ていると、つい本来の生態を忘れてしまいますね。

 

なるほど、分解された葉が好きなことは分かったけど、もう一つ不思議なことが・・・。


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公園に行って、落ち葉の下の土を持ち帰って飼育ケース内に入れるとすぐにダンゴムシが土を食べます。大好きな乾燥エビと同じくらい食いつきが良いです。

飼育ケースには市販の腐葉土を入れているのに、公園の土は何がそんなに好きなんでしょう。

 


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同じく公園で拾ってきたものでありダンゴムシが夢中で食べているこの枯葉ですが、画面左に白いカビが見えます。これは「白色腐朽菌」と呼ばれるリグニンを完全に分解できる唯一の微生物です。木材の中の褐色成分であるリグニンを分解すると木材が白く変色するためこの名前で呼ばれます。食卓でお馴染みのシイタケやヒラタケなども白色腐朽菌です。

(白色腐朽菌のほか、リグニンを不完全分解する褐色腐朽菌、セルロースとヘミセルロースを分解する軟腐朽菌を合わせて「木材腐朽菌」と呼びます。)

 

ケース内には他にいくらでも枯葉を置いているのに何匹ものダンゴムシがこの枯葉を食べるのはただ分解が進んでいるからではなく、白色腐朽菌が付いているから・・・?

 

その答えは偶然読んでいた本『はたらく土の虫』に書いてありました。

ダンゴムシのような「落葉変換者」の多くはリグニンを多く含む葉を分解することができないため微生物によって分解された物を食べますが、その時に微生物ごと食べることによって消化管内で生き延びた微生物が出す分解酵素がさらに食べた物の分解・吸収を助けているのだそうです。

微生物無くしてダンゴムシ無しですね。

上に“微生物がお母さんでダンゴムシが乳幼児“と書いたけれど、あながち変な例えでも無さそうだ。なんと大いなる母でしょう。

カツラの枯葉に群がるダンゴムシ

近くに大好物のりんごとエビとニンジンが置いてありますが、それよりも断然ボロボロの枯葉が好きなようです。

この姿を見ると、人間の目線で美味しくて綺麗な餌をあげてダンゴムシが幸せだろうと思っていた自分のエゴを反省せざるを得ません。

 

ペットはなるべく清潔に飼いたいと思うものですが、適度に自然の環境を取り入れた方が良いようです。

 


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4月。道に落ちていたサクラの花びらを熱湯消毒してダンゴムシの飼育ケースに入れたら、5分もしない内に寄ってきて長い時間食べていました。好評です。

散ったばかりの綺麗な花びらを持ち帰ったため微生物による分解発酵はほぼされていませんが、花びらは元々柔らかくリグニンをあまり含まないから食べられるのでしょうか。


ちなみに花びらを熱湯に浸けるとすぐに茶色く変色してしまうため、映える画面にはなりませんでした。

 

サクラの花には人にも犬にも毒性は無いそうで、恐らく虫にとっても無害でしょう。

しかしサクラの葉にはアミグダリンという成分が含まれていて、これは人や犬にとって毒性があります。また、葉にはクマリンというサクラの芳香の元になる成分も含まれていてこれを人が多量に摂取すると肝機能障害を起こすらしいです。
サクラの葉をたくさん与えるのは良くないかもしれないですね。

 

【参考文献】

藤井 佐織『はたらく土の虫』

【参考論文】

松良 俊明『ダンゴムシの葉の選択性を調べるための実験と観察』

https://www.kyokyo-u.ac.jp/cee/17-9.pdf

【参考記事】

農林水産省「不思議がいっぱい!きのこの生態と豆知識」

https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2110/spe1_01.html

株式会社メイカム「微生物と酵素の関係」

https://www.kouso-kj.com/post

岐阜県森林研究所「木の分解を助けるリグニンの分解酵素」

https://www.forest.rd.pref.gifu.lg.jp/rd/shigen/05042gr.html

プティシアンマガジン「【獣医師監修】愛犬が桜を食べたら要注意!花びらは問題ないが葉は危険なことも」

https://petitchienmagazine.com/2023/04/04/sakura